今こそ必要とされる「アブステナンス教育」 椙井小百合 & 編集部
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2006年4月から新たにファミリー・フォーラム・ジャパンとして生まれ変わった私たちですが、2002年からアブステナンス(結婚するまで性関係を待つこと)の考え方を基礎とした性教育を行ってきました。地道な活動ではありますが、クリスチャンを中心に少しずつ広まりつつあります。また2005年、06年と連続で、長野県にある公立高校でのプレゼンテーションの機会がありました。教会の中から外へ、このアブステナンス教育が、さらに拡大することを願っています。
1 学校教育の中での「性」
「若者の性行動の活発化が目だってきた」と言われて久しくなります。文部科学省、厚生労働省では、それぞれの立場に立った若者の性教育を行なっていますが、その効果の程は…?と言われると、さしたる成果は上がっていないように思えます。
実際、10代の性感染症、望まない妊娠、中絶など統計上の数字も上がっています。(近年、10代の中絶数は若干下がりましたが、それでも、先進国の中では高い数値です。)当然、子どもの教育に直接たずさわっている教師の中にも、この事態を何とかしたいという思いが起こっています。
それなのに、学校での性教育は、「性の自己決定力をつける教育」つまり、性感染症、望まない妊娠を避けるために「いつ、誰と、セックスをするのか、しないのか、その力をつける教育をするべきだ」という考え方がいまだに一般的です。この「自己決定力」を与える教育は、1960〜70年代にアメリカで行われていた道徳教育で、今日のアメリカでは「失敗」とされている教育方法です。
「教師(大人)には、何が正しくて何が悪いのか教える権利は無い。」
この考え方が性教育にも取り入れられているのです。生徒たちは、中学生、高校生の性行為はいけないとは教えられません。その代わりに、「知識として科学的に『性』を教え、権利としての『性の健康』を保障すれば、子ども達は自分で価値観を身につけ、自分で責任をもって性行動をとっていく。だから性交に関しても避妊に関しても、包み隠さず、科学的に教育していくことが大切だ。それも早い時期から始めれば、子ども達は『自己決定』して行動できるようになる」というのです。
一般的には「包括的性教育」と呼ばれているものですが、これは善悪の基準も、異性との付き合い方も「自分」で決めるわけですから、望まない妊娠、性感染症を避けるためにはコンドームを使うこと、ピルの服用を勧めるこが欠かせないものになってきます。そして、この中に結婚についての学びはありません。
むしろ、従来の「結婚観」に縛られた考え方をしないように教育します。避妊と人工妊娠中絶も個人の権利だ、という考え方が一般化してきた現代、性行為が結婚や出産とは切り離されているのです。そして、ただ、「権利」として性の快楽を求める性行為が、当たり前のように浸透しています。
さらに、同性愛が現代の新しい愛の形となり、「同性愛者の人権」まで叫ばれるようになってきました。同性愛は生まれつきだ、と信じている教師もいます。教育者向けの性教育研修会/講習会で、一般に公開されているものがありますので、顔を出してみると、先生方がどのような立場で学んでおられるのかがつかめます。
科学的に「性」を教え、善悪の基準を教えずに自分は正しいという「自己肯定感」を教えれば、本当に子どもたちは、正しい人間関係、正しい性の選択ができるのでしょうか? クリスチャンがすべき「性教育」とは、何でしょうか?
2、聖書の中の「性」
学校教育の中では、私たちが生まれたのは「偶然」であるという進化論の考え方が基本です。自分の性(男か女か)も、たまたま持ち合わせたものだと言うのです。「偶然に」「たまたま」生まれた命の中には、目的や存在意味は、何もありません。人間と動物は基本的には同じ、と教えています。
しかし、創世記1章27節では、「神は人をご自身のかたちとして創造された」とあります。この「かたち」とは姿、形を表すものではなく「神の本質に関わるもの」です。
そういう意味で、人は、動物とは全く違います。神は、人格的に交わりを持つために、私たちを造られたのです。
神の性質を反映して造られた人間ですから、常に人間関係を求めます。聖書に見られる最初の人間、アダムとエバの関係は、人類最初の人間関係であると同時に、人類最初の男女関係でもあります。出合った二人は知り合い、親密な関係になり、その最も親密な関係の現われとして、性的に結ばれます。
「これこそ、今や、私の骨からの骨、私の肉からの肉。これを女と名づけよう。これは男から取られたのだから」(創世記2章23節) 自分にぴったりの、心と心を通わせることのできるパートナーが見つかったアダムの喜びの表現です。それは、単にその場の感情的な男女の関係ではなく、神に祝福され、神のかたちを反映するもの同士の、人格と人格の深いふれあいの中に感じることのできる、心の底からの喜びです。
聖書では、結婚という契約の中での性を祝福しています。それは、結婚が、単なる「人間による宣言」ではなく、「神によって霊的に結び付けられたもの」だからです。ですから当然、結婚外の性関係は認められないし、現実的に、結婚外の性的関係の結果は、破壊的なものになるのです。このように、聖書の教える「性」は、結婚を抜きには考えられません。また、「性行為」の中で切り離せないのが、子どもの誕生です。
神は私たちに、「生めよ。ふえよ。地を満たせ」(創世記1章28節)と仰せになりました。私たちは、魂と意思でお互いを知り、肉体を持って深く人格的に知り合う事で、神のみこころである新しい命を授かります。性行為の目的は、単なる快楽ではなく、自分とは別個の人格を生み出すことが含まれます。そのことを受け止める時、私たちの性行為には、「責任」と「自制心」が必要なことが明らかです。長い結婚生活には、愛情のほかに、忍耐と思いやり、自制心も必要です。それで、性教育を行う時、今の子ども達が「自己決定」する前に、自制心、思いやり、責任感を教える「心を育てる教育」が必要なのです。
3、我が子にできる性教育
子どもたちの周りにある「性」の情報は、学校よりも、むしろ雑誌やテレビなど、マスコミの影響のほうが多いでしょう。若者たちがたむろするコンビニの雑誌コーナーには、みだらな性行動をあおるような印刷物が数多く並んでいます。その上、学校では「科学的」を名目に、解剖学的知識を強調し、結婚を教えずに、「セックスは最高の触れ合いだ、自己決定だ」と教育されているとしたら、知らない間に親の思いもよらない我が子ができあがっている、ということにもなりかねません。
ちなみに、「ポルノ」には、中毒症状をもたらす傾向のあることが、専門家の研究で明らかになっています。漸進性がある(段階を追って、ますます深入りする)ことも知られています。言わば、人間の心に対してアルコールや薬物のような働きを及ぼします。「たかが印刷物、たかがネット上の画像」と片付けることができません。正常な性的本能を著しく歪め、正常な人間関係、男女関係を持てなくしてしまう力が、ポルノにはあります。心に刻まれた画像は、簡単に消し去れません。
極端な場合は、人を殺人者にしてしまうことがあります。マスコミを賑わす猟奇的事件の際に、必ずと言っていいほど聞かれるのが、「容疑者の部屋には、多数のポルノビデオが発見された」という報道です。
性教育の講演会が子ども対象にあったら、たとえ父兄の参観を呼びかけていなくても、子どもと一緒にその話を聞けるよう、学校にお願いしてみましょう。
ただ頭ごなしに、学校の性教育を批判するのではなく、親も一緒に話を聴き、学校から帰ってきた子と「今日の話、どう思った?」などと会話をすることです。その中で、親から子へ聖書に基づいた価値観、道徳観を伝え、世の中の問題にどう対処していったらいいのか、子どもと一緒に話し合う機会を多く持つのです。そうすると、子どもの中に親に対する信頼感と安心感が生まれます。性の話題に限らず、「親との会話の多い子には、性行動が少ない」という統計があります。
「自分は失敗したから、子どもにえらそうなことは言えない」と感じる人もいます。しかし、失敗から学ぶことが出来るのも、人間の素晴らしい所です。親のすべての過去を子どもに言う必要はありませんが、正直な告白ができたなら、子どもの魂に必ずや残ることでしょう。親の訓練によって、子どもの中に、神に従い善悪を判断し、行動する人格が育ちます。そして、成長していく我が子から親も教えられます。神さまを土台とした、人格のふれあいの中で、神のみこころにかなった人間性が育ちます。
思春期、青年期に一番誘惑の多い「性」に対する教育で、親としてはっきりとしたいのは、「アブステナンス」の立場、「結婚するまで性交渉を持たないこと」です。
結婚を抜きにした「快楽の性」を良しとした教育が常識になっている社会で、アブステンスを主張することは、大きな困難を伴うでしょう。時には、失笑を買うことさえあります。しかし、私たちを造られた天地創造の神が、結婚の中での性にのみ祝福を与えた事を思うとき、「性を造られた神さまに従うことこそ、人間の幸せだ」と、教えたいものです。
「人の性行動を決定するのは、知識ではなく価値観である」という言葉を聞いた事があります。今こそ、アブステナンスの価値観を、私たちクリスチャンが堂々と語るべき時ではないでしょうか。アブステナンスを支持して下さる方が、ノンクリスチャン教師の中にも少数ながらおられることに、私たちは大きな励ましを覚えています。
(椙井小百合 & 編集部)
(参考)
* 唄野隆 「神のイメージに生きる」 いのちのことば社
* 千代崎秀雄 「新しい愛の誕生 聖書に見る結婚の奥義」 同上
* 水谷潔 「チョット聞けない男女のお・は・な・し」 同上
*FFJは、アブステナンス性教育に役立つ教材「真実の愛と性」、「性、その嘘と真実」、Dr.ドブソンのユース・セミナー第3巻「エイズ時代の性倫理」、同第7巻「ポルノの害毒」(すべてVHS)を発売しています。