これからの数年間はコミュニケーションがかなり難しくなることを、覚悟しておいたほうがよいでしょう。思春期は、竜巻のようなものだという例えを私は使ったことがありますが、もっと良いたとえがあります。
思春期は、フロリダ州ケープ・カナベラルから打ち上げられた初期の宇宙ロケットに似ています。ジョン・グレン大佐や他の宇宙飛行士たちが、危険の伴う旅行に出発したときの興奮を、今も覚えています。アメリカ人であることが誇らしかったものです。
宇宙船の最大の危険が大気圏突入時にあったことを、同時代を生きた方々は思い起こせるでしょう。華氏1,000度を超える宇宙船外の高熱から船内の飛行士たちを守るものは、カプセルの底の耐熱板のみでした。もし宇宙船が大気に突っ込む角度を少しでも間違えば、飛行士たちは黒焦げになりまます。緊張が高まったちょうどその瞬間に、マイナス・イオンがカプセルの周囲をおおい、約7分間というもの地上との連絡はまったく断たれました。飛行士たちの無事を知らせるニュースを、世界中が息を飲んで待ちました。やがて、クリス・クラフトの元気な声が聞こえました。
「こちらコントロール・センター。飛行士たちから連絡あり。全員無事。まもなく着水予定」
レストラン、銀行、空港、そして全国の何百万の家庭で、歓声と感謝の祈りの声が湧き上がりました。CBSニュースのアナウンサーさえ、安堵しているかに見えました。
なぜ私がこの例を持ち出したかは、お分かりでしょう。子ども時代の訓練と準備が終わったあと、思春期の子は打ち上げ台に登ります。息子が「思春期」という名のカプセルに入り、ロケットが火を吹くのを待っているのを、両親は心配げに見つめます。一緒に乗りたいと父親も母親も思いますが、宇宙船の席は一つ。両親はお呼びではありません。予告もなしにエンジンは始動を始め、その時、言わば精神的な「へその緒」が切り落とされます。「成功! 打ち上げ成功だ!」父親は叫びます。
ついこの間までは赤ちゃんだった息子は、今や宇宙をめざしています。数週間後、両親は胆を冷やすような経験をします。カプセルとの連絡が突然とだえます。もっとも息子の無事を確認したい時に、「マイナス・イオン」がコミュニケーションを断ち切ります。
「どうして、息子は私らに口を利かないのだろう?」
この沈黙の期間は、グレン大佐たちの場合のように数分という訳には行きません。何年も続くかもわかりません。この間までは「少しは黙ってくれ」と頼まなければならなかったほどおしゃべりで聞きたがり屋だった少年が、今や九つの語彙しか使いません。すなわち、「知らん」「たぶん」「忘れた」「何?」「やだね」「お断り!」「え? おれが?」「別に」「ふつう」。
受信機からは雑音しか聞こえません。うなり声、うめき声、どなり声、ぼやき声。地上で待つ身には、なんとつらい時間でしょうか。
数年後に、地上のコントロール・センターが宇宙船は行方不明かと心配している時、彼方の発信機からひっかくような信号音が何回か聞き取れます。ラジオの周りにつめていた両親は、狂喜します。
「これがあの子の声なの? 前よりずっと深く、大人っぽくなって。また聞こえた。もう間違いない」
宇宙を旅行していた息子は、再び地上の両親と通信しようとしています! 出発時には14歳でしたが、今は20歳目前。あの暗い雰囲気がなくなって、また息子と話しができるなんて!
その通り。ほとんどの家族にとっては、まさしくそういうことが起こります。「宇宙船」の無事を知って、何年間もひそかに心配していた両親は、胸をなでおろします。20代の前半にやってくる「着水」は、親子双方にとって素晴しい再会の時です。
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